「チバニアン」千葉セクションにおける本協議会の関わりと借地権について
本記事では千葉県市原市田淵の地層、いわゆる「千葉セクション(チバニアン)」につきまして
1)本協議会がGSSP申請グループによる研究・提案申請に協力する前後において、どの様に現地に関わっていたのか
2)なぜGSSP申請グループとの協力関係を解消し、申請過程の問題点を指摘し借地権を設定するまでに至ったのか
について説明しております。
本記事に関する質問等はinfo〇paleokantogeo.org(「〇」を「@」に変えて下さい)までお寄せください。
なお、本協議会会長であった楡井久(茨城大学名誉教授)が借地権を取得した目的は
① 現地に打ち込まれた3色(赤-黄-緑)の古地磁気杭表示の過程に捏造・改ざん行為があり
引き抜き等の証拠隠滅の恐れがあるため証拠の保全と問題点を提示した看板の保全措置
② GSSP申請グループによる無断試料採取(盗掘行為)の防止
の2点になります。
大手メディアにより借地権について報じられた2019年5月末には、多くの報道で借地が「立入禁止になる」と報じられましたが、この様な事実は無く、本協議会が文化財保護法の趣旨に基づき借地上に設置した階段は2018年の設置当初から多くの来訪者に立ち入り・ご利用頂いている事実も予め申し添えます。
1.GSSP申請グループが参加する以前の関わりについて(1990年~)
千葉県市原市田淵地区の露頭(現在の千葉セクション)をGSSP(国際標準模式層断面及び地点)に
提案するための活動は、1990年頃から大阪市立大学の熊井久雄名誉教授と市原実名誉教授(ともに
故人)を中心に行われ、市原名誉教授の教え子であった楡井も当初から調査に携わってきました。
1990年から91年にかけて、楡井を含む房総半島第四紀層序ワーキンググループ(WQSB)
と会田信行氏によりm単位で現地露頭から古地磁気試料のサンプリングが行われました。91年7月には、熊井名誉教授も第四紀研究誌に論文を執筆されており、この中で房総半島がGSSPになり得ることを示しています。
1991年に開催されたINQUA(国際第四紀学連合)北京大会では、楡井他により中川ほか(1969)などの研究成果を踏まえた千葉セクションを含む国本層の層序、および現地の古地磁気測定結果(中間報告)が発表され、のちに会田(1997)で正式に論文化されたことにより、千葉セクションの露頭において初めて松山-ブリュンヌ(ブルン)古地磁気逆転現象が確認されました。このときの古地磁気測定結果は現在でも養老川から露頭を眺めたとき、右手側(上流側)に見ることが出来ます。
また、当時INQUA層序委員会の委員でもあった熊井名誉教授と市原名誉教授による紹介等の尽力により、層序委員会委員長であったGerald M.Richmond博士(元 米国地質調査所(USGS)所長)の来日が大会中に決まり、帰国後には現地視察に向けた準備が始まりました。
そして、1991年8月19日にはRichmond博士を迎えての現地視察が行われました。
当日はあいにく河川が増水しており、ゴムボートを用いて養老川沿いの現地露頭を視察することになりましたが、更新統前期・中期境界の候補地としての議論は大変盛り上がりました。
翌年の1992年にはIGC(万国地質学会議)京都大会も開催され、この時にもINQUAアジア太平洋地区層序委員会による現地露頭の巡検が行われ議論が盛り上がりました。
1991年から4年後の1995年には再びINQUAベルリン大会が開催され、熊井名誉教授他により
更新統下部・中部境界模式地に関するシンポジウムが催されました。このシンポジウムでは、
下部・中部の境界(後のGSSP)を古地磁気層序における松山-ブリュンヌ境界に設けるのが適切であるとして、現在の千葉セクションが初めて模式地の候補として提案されました。
この後、しばらく更新統下部・中部境界に関する国際委員会の議論は保留されていましたが、2004年のIGCフィレンツェ大会が開催された頃から再びIUGS(国際地質科学連合)-ICS(国際層序委員会)-SQS(第四紀層序小委員会)により議論が活発に行われる様になりました。日本では2007年に日本第四紀学会主催のシンポジウムが開かれ、千葉セクションを含む上総層群全般および国本層を中心に、明治以降の研究史と古地磁気の逆転について議論されました。
翌年の2008年にはIGCオスロ大会が開催され、更新統下部・中部境界を松山-ブリュンヌ逆転により定義することが議論され、2009年に正式決定されました。また模式地についてはIUGS-ICS-SQSワーキンググループで予備投票が実施され、この時千葉セクションはまだイタリアの2候補地に続いての3番手でした。
この最中、2009年に楡井久を中心として本協議会が正式に発足しております。
2010年になり、1月頃に熊井名誉教授から楡井に宛てて連絡がありました。
内容は「現在GSSPはイタリアの候補地が優勢となっており、2011年のINQUAケープタウン大会の際に決定してしまいそうなので市原市で国際シンポジウムを行いたい。その際にGSSP決定に影響力を持つSQS委員長のMartin J.Head教授(カナダ,ブロック大学(当時))とINQUA層序委員長のBrad Pillans教授(オーストラリア国立大学)を招待し、千葉セクションの優位性を説明し理解を得たい」と言うものでした。
再びGSSP認定へ向けての国際シンポジウムの準備が始まり、2011年1月にJR五井駅に隣接する
サンプラザ市原にて国際シンポジウムが行われました。
シンポジウムの翌日には養老川沿いの現地露頭で巡検・討論会が実施され、Head教授・Pillans教授(写真中央)も参加されました。
このシンポジウムの後、2011年のINQUAケープタウン大会においてGSSPの選定が4年先延ばしになる事が決定されました。
そして2013年にはHead教授の提案・助言により、当時の研究グループに新たに岡田誠教授(茨城大学)、菅沼悠介准教授(国立極地研究所,当時は助教)等が加わり、新体制となってGSSP提案申請へと向かいました。