上の柱状図は「チバニアン」決定の根拠となった論文の一つであるSimon et al.(2019年5月発表)から抜粋したものです。
柱状図の横には古地磁気強度の指標と考えられているベリリウム(Be)同位体測定の試料採取位置が「-」で記されておりますが、この露頭ではByk-E火山灰の上に向かって約4mまで採取された様に描かれております。
一方、露頭に目を向けると、10cm毎に打たれた赤-黄-緑の杭をByk-E火山灰から上に向かって数えると17本、つまり1.7m分しかありません。
Simon et al.(2019)論文・データ表を読むと、ベリリウム測定にはOkada et al.(2017)の古地磁気試料を用いた事が記されています。
この露頭におけるOkada et al.(2017)の試料採取孔は、金の杭の脇に10cm間隔で高さ2.05mまで空けられています。
では、Simon et al.(2019)論文ではByk-E火山灰から上に向かって4mまで採取した様に記載されていますが、実際にこの露頭は4mもあるでしょうか?
もう一度、冒頭のSimon et al.(2019)柱状図を見ると、この露頭で見られるByk-E火山灰の3.5mほど上には「Byk-A」という火山灰があり、この火山灰まで連続して試料採取を実施した、という事になっております。
しかし、この露頭ではByk-Aは見られず、上の写真の通りByk-Eの上は約2.1mまでしか露頭がありません。
2019年5月の論文発表から間もなく、私たち古関東深海盆ジオパーク推進協議会がデータ表を確認したところ、この露頭の裏手にある『不動滝』に続く枝沢(柱状図の「養老-田淵セクション(写真)」)から採取した試料が、この露頭(千葉セクション)で採取した様に書き変えられている事が判明しました。
これはGSSP1次審査が行われた当時、審査委員から「Byk-EからByk-Aまで、途中で途切れることのない連続した露頭での試料採取」を実施するよう求められていたために行われた「改ざん」行為である事が疑われます。
ところが、この論文の上記問題点を指摘しようとした矢先の2019年5月末、私たち協議会が借りている土地が「立入禁止になる」という誤ったニュースが朝日新聞等の大手メディアによって報じられました。
(外部リンク:当時の朝日新聞記事)
なお、リンク先記事の中で露頭を見学している写真が掲載されておりますが、この見学者の方々が立っている場所が借地になります。
お借りしている土地は、2017年当時斜面が危険という理由で市原市が立入禁止にしていた場所であり、私たち協議会が私費で階段を作りました。
こうして安全に立入見学できるようになり、多くの見学者や研究者、市役所関係の方々が階段を活用していたという事実もあります。
また、「立入禁止になる」と報道各社に発表した国立極地研究所・茨城大学等の研究者を中心としたチバニアン申請グループの方々も、学会巡検等では階段を利用し、借地内に立入り露頭を説明しているという矛盾ある行動をとっております。
チバニアン決定後に再び市原市は借地内を立入禁止としておりますが、私たち協議会は立入禁止を解除する様、要望書を市に数回提出しております。また、論文の問題点を説明した文書も提出しております。
しかし、小出譲治市長をはじめ市からの連絡は頂けておりません。
結局のところ、「立入禁止にしている」という誤った情報だけが報道各社によりニュースとして大きく取り上げられ、私たちが指摘するSimon et al.(2019)など、GSSPに関する論文の様々な問題点は議論されず、黙殺されたままとなっております。
【参考論文】
Simon et al.(2019):High-resolution 10Be and paleomagnetic recording of the last polarity reversal in the Chiba composite section: Age and dynamics of the Matuyama–Brunhes transition
Okada et al.(2017):Paleomagnetic direction and paleointensity variations during the Matuyama–Brunhes polarity transition from a marine succession in the Chiba composite section of the Boso Peninsula, central Japan