日本ジオパークネットワーク(JGN)2023年全国大会およびポストジオツアーのご報告
全国大会への出展
2023年10月27日~29日に千葉県銚子市で開催された日本ジオパークネットワーク(JGN)全国大会に参加・ポスターを出展いたしました。
(全国大会ホームページはこちら)(第13回日本ジオパーク全国大会 in 関東)
(当協議会のポスター内容はこちら)
大会当日、当協議会のブースにお越しいただいた皆様および会場設営等で大変お世話になりました銚子ジオパークの皆様には厚く御礼申し上げます。
ポストジオツアー
銚子・秩父会場終了翌日の10月30日には房総半島をほぼ一周巡るポストジオツアーを催行いたしました。
ご参加頂きました皆様、各見学サイト関係者の皆様にも厚く御礼申し上げます。
(ツアーの内容はこちら)
2023年9月に発生した台風13号による記録的大雨の影響により、あいにく養老渓谷では渓谷内の遊歩道を散策することが出来ませんでした。しかし、バス移動中や見学サイトでは参加者の皆様と様々な意見交換を通じて議論が深まり、私たち協議会メンバーにとっても他の地域のジオパークについて勉強させて頂く大変良い機会となりました。
以下、ツアー中に交わされた質問・ご意見の一部をQ&A形式でご紹介いたします。
Q&A
【Q1】(上ガスについて)
青立ち(穂に実が入らず、青々として穂が立っている状態)は、メタンガスの影響とは別ではないか?メタン以外の成分が上ガスと一緒に出ており、それが稲の生育に影響しているのではないだろうか?
【A1】
断定はできませんが、見学した地域では今のところ以下の様な原因が考えられています。
上ガス(メタン)が発生する場所では、メタンを酸化させる好気性のバクテリアが増えることが知られています。
バクテリアが根の周りに増えると強い還元状態(酸欠状態)になり、根張りが悪くなるとともに根腐れを引き起こし、生育不足により稲が倒れると考えられています。
また、上ガスが発生する水田土壌は窒素を固定する共生菌により窒素過多となり、生育不良(青立ち)が起きているのではないか、とも考えられています。
また、見学の中で地元の方々からも以下のようなお話を伺いました。
▶ 上ガスが出ている範囲は、西から東へ年々移動している(年間20㎝位ずつ東へ移動するとも言われています)
▶ 上ガスが多い場所と分かっているところでは、予めその場所を避けて作付けを行っている
【Q2】(「古関東深海盆」について①)
昔は古鬼怒川が霞ケ浦に向かって流れていた。更にさかのぼると、古関東深海盆の形成にも古鬼怒川が関わっていたのではないか?(古鬼怒川と古関東深海盆の関連を知りたい)
【A2】
茨城県の北浦沿いに位置する潮来市や鹿嶋市では、下総層群中に古鬼怒川由来と考えられる礫層が見られます。礫は円磨度が高く、大きいものでは50mm程の大きさになります。
また、この礫層は非常に頑丈で透水性が良く、潮来市では中世(14~15世紀頃)に築城された山城である『島﨑城』跡の基底部にも見られ、さながら『天然の石垣』といった様相を呈しております。
☆島崎城跡について詳しくはこちら☆ ⇒ 「島崎城跡を守る会」
地元ボランティアの皆様による活躍が紹介されております。
【Q3】(「古関東深海盆」について②)
古関東深海盆の「縁」は、どの範囲までと考えているのか?
【A3】
現時点では地下のボーリング資料が乏しく、厳密に「ここからここまで」とは言えませんが、深海に生息していたと考えられている有孔虫"Bulimina nipponica Zonule“化石の分布域周辺を想定しております。
この有孔虫化石は、名取(1997)に基づく南関東ガス田の分布域ともおおむね一致します。
【Q4】(「上総層群の成り立ち」について)
上総層群が形成される約250万年前頃は、地域によっては隆起していたが、古関東深海盆エリアは隆起していなかったのか?(沈降した(海水が入ってきた)のか?)
【A4】
約250万年前頃は、日本列島全体のオーダーで見たときは第四紀に入り、隆起も起こる一方、大きな堆積盆地が日本列島の各地に形成された時代とも考えられています。大阪盆地や新潟盆地の様に大規模な堆積盆地が形成された時代でもあり、古関東深海盆も、その中の一つになります。
この時代に形成された堆積盆地の多くは、現在の地下水盆を形作っております。
【Q5】(「かん水・ちゃ水」について)
かん水とは、どんな水なのか?
ちゃ水の焦げ茶色は関東ローム由来の鉄分ではないだろうか?
【A5】
かん水(鹹水)とは、一般的には海水の様な塩分を含んだ水のことを指します。地層中の天然ガスが溶け込んだかん水(あるいは「化石海水」とも)は、「天然ガスかん水」と呼ばれることもあります。
今回のジオツアーで巡りました房総半島では、地層中のかん水に天然ガスのほか、通常の海水に比べて約2000倍ものヨウ素が溶け込んでおり、千葉県の貴重な天然資源として知られています。
真水とかん水の間の地下水で見られるちゃ水につきましては、黒色~褐色のフミン酸(腐植酸)が含まれることが知られており、ちゃ水の色の原因と考えられています。
【Q6】(「チバニアン」について)
地磁気逆転の前後で、生物(生態系)に影響はあるのか?
【A6】
地磁気の逆転現象が生物に大きな影響を与えているかどうかは、よく分かっておりません。
本協議会はGSSP申請グループの論文を実際に読み、図表に捏造・改ざんの疑いがあることを指摘しておりますが、仮に申請グループの有孔虫や花粉のデータが真正なものであると仮定すると、申請グループが主張する地磁気逆転(77万3000年前)の前後で植生や有孔虫の優先種には劇的な変化は見られないことから、生態系には大きな影響を及ぼさないのではないかと考えられます。
むしろ電子機器などは影響が出ると考えられ、現代の私たちの生活には支障をきたす可能性はありますが、地磁気は一瞬で逆転するわけではなく数百年~数千年かけて逆転すると考えられているので、人間も長期的には適応していくのではないかとも考えられます。
【Q7】(養老渓谷の地質について)
2023年9月の大雨で斜面の上から崩れてきた岩は珪藻土ではないか?
【A7】
珪藻土は植物プランクトンが堆積し、化石になったものであり、およそ1000万年以上前に堆積したと考えられています。非常に多孔質であり、マットや七輪、レンガとしても利用されています。
日本では、北海道から能登半島、隠岐島などの主に日本海側に分布しております。
一方、上の写真が示す養老渓谷の崩れてきた岩は大田代(おおただい)層由来の約100~150万年前に堆積した地層と考えられ、珪藻土と比較して若い地層になります。また、この岩(泥岩)は珪藻土と比べて密度が大きいことからも、珪藻土とは異なるものと考えられます。
参考文献
1)株式会社クボタ発行,アーバンクボタ27号(1988),39p.図10-黒滝不整合等深線・上総層群と Bulimina nipponica Zonule(黄和田層の層準)の分布
2)名取博夫,1997,茂原型天然ガス鉱床はメタンハイドレート起源か.地質ニュース510号,59-66.
3)菊池良樹,1964,南関東地方の新第三系および第四系の微化石層位学的研究.東北大学理学部地質学古生物学教室研究邦文報告/東北大学 編(通号59)1964.03
4)鈴木尉元・小玉喜三郎・三梨 昂,1983,房総半島における上総層群の堆積と構造運動.地質調査所月報,第34巻 第4号